「右上から時計回りに、刺身盛り合わせ¥1080、イチゴパテ¥600、本白子青森式¥980」
一言でいえば、組み合わせの妙。酒好きの間でちょっと知られた店である『天★(てんせい)』は、凡人には到底思いつきもしない素材のコンビネーションで異彩を放つ。たとえば、佃煮とマスカルポーネーチーズを和えた肴、自家製レバーパテに苺を乗せた一皿。果ては、親交の深い酒蔵から届く酒粕に漬けた筋子、といった具合に。そして、日本酒に造詣の深い店主が独自の感性で選んだ50銘柄も呑兵衛の心を掴んでやまない。
柔軟な発想で素材の新たな顔を引き出す
「開店当初からお客の心を掴んできたイチゴパテ。会津の「宮泉」と合わせれば、うすにごり特有のフレッシュ感が果実の瑞々しさをより引き立てる」
素材へのアプローチに並々ならぬ情熱を注ぐ店主・早坂登志男氏。曰く「あらゆる調理法や組み合わせをとにかく試す」ことで、未到の味に出合えるという。 その言葉を具現した最たる酒肴が、自家製鶏レバーペーストに薄切りのイチゴを敷き詰めた「イチゴパテ」だろう。奇を衒ったわけではない、丁寧に仕込まれたパテは臭みを感じさせるどころか、香りづけのショウガと月桂樹がふんわり香る上品な仕上がり。酒に繋がるよう醤油やみりんで調味することで、和酒との好相性が実現、さらにイチゴの酸味が華やぎを添える算段だ。季節により金柑やキウイ、パイナップルのように酸味と水分量のあるフルーツで供されることも。
「筋子酒粕漬け」をちびちびといただくものいい。そのままでも十分に旨い塩漬け筋子を酒蔵直送の酒粕に漬けることでコクと旨みは2倍にも3倍にも膨らみ、酒呑み泣かせの絶品酒肴のできあがりというわけだ。
「刺し身盛り合わせ。この日は平目、マグロ、エンガワ、ブラウンタイガー、そしてルビー色に輝く筋子酒粕漬け」
独創的料理の中にもキラリと光る故郷への思い
「本白子青森式は海のモノとの相性抜群の「天青」と。名前からイメージされる青い空のような、澄んだ飲み心地」
店主が故郷・青森で出会った白子料理にインスパイアされて考案した「本白子青森式」。温かい白子に土佐醤油をかけていただくもので、プリプリに膨らんだ薄皮に歯を立てると、口いっぱいに熱々とろとろの白子が広がる。繊細な火入れを施され、そして、これらをすっと断ち切る湘南の地酒「天青」のミネラル感もいい。
実はこの酒こそが『天★』という店名の由来でもあるという。店主と親交の深い同い年の酒人、五十嵐哲朗氏が若くして湘南唯一の蔵元の杜氏に就いたことが独立の契機となった。「尊敬の意も込め、“てんせい”という音を使わせてもらっています」と店主は語る。
「淡麗ブームもなんのその、濃厚上等!と言わんばかりに旨みが凝縮したスープはインパクト抜群。軍鶏ラーメン\700」
〆にはぜひ「軍鶏ラーメン」を。生産者から直接仕入れる青森軍鶏ロックを丸で炊くこと4時間、輝かんばかりの黄金色のスープが生まれる。濃厚、いや、“特濃“の極みに感服!
気取ったタイプの店ではないゆえ恭しい接客や派手な演出はないが、酒呑みのツボを押さえた酒肴の数々、流行やネームブランドに囚われず店主が全国各地へ足を運び選び抜いた銘柄50種類。これ以上に店を訪れる理由がいるだろうか。
4月で10周年を迎える。「置く酒はビールと日本酒のみ」という潔いスタイルも絶賛継続中だ。
(※価格、内容は取材時のもの)
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