日本のお風呂に欠かせないもの、それは「温泉の粉」だ!
今ではおしゃれなハーブの香りのする「温泉の粉」も人気だが、入浴剤といえば「草津の湯」や「登別の湯」など各地の温泉を再現したものが鉄板だ! しかしあの「◯◯の湯」というのは、そもそもどういう基準で作られているのだろう?そもそも「温泉の粉」の正体というのはいったい何なのだ!? そんなこんなで、Yutty!取材班は「バスクリン」本社に突撃取材を敢行した!!!
話を聞かせてくれたのは、製品開発部・シニアマネージャーの杉浦 満さん(47歳)。
杉浦さんは1991年入社時から入浴剤の商品開発に携わり、中でも「日本の名湯」開発の中心人物。
「1986年の発売当初は5品目から始めました。色はクリアタイプ。1987年に登別カルルスと山代温泉の白濁バージョンが出たんです」
この濁り湯タイプの開発には苦労したそうで、ファンデーションに使われる酸化チタンを水溶性高分子でコーディングすることで、ようやく完成したという。
実際の商品を前に開発トークが続く
「企画から開発、発売まで、短くても1年半、長くて3年以上かかることもあります。安定性の試験や厚労省の許認可待ちもあるので」
当時の「日本の名湯」シリーズはテレビCMをばんばん打って、景気もよかったせいもあり、年間80億円を売り上げた。では、 実際にどうやって日本各地のお湯を再現しているのだろうか。
「企画、製剤、調香の3人チームで実際に温泉を巡るんです。 そのうえで、上位3種類の含有成分を合わせること温泉地の情緒を色と香りで表現します」
現地の人の話を聞くバスクリンチーム
仕事で温泉巡りを楽しめるだなんてうらやましい! と思ったらそうでもなく、のんびり温泉を楽しんでいる時間はないとのこと。
情報を取ったら5分で湯から上がる。その後30分ほどは現地にとどまって、温泉地の雰囲気を肌で感じながら商品の方向性を徹底的に話し合うのだ。
「帰社してしまうと仕事部屋はバラバラなので、顔を合わせる機会も少なくなるんです」
いまでこそ温泉地との共同開発は盛んだが、当時は日帰り入浴の文化がまだなかったため、煙たがられることも多かったそうだ。
至福の5分間を満喫中の杉浦さん
「1年に2~3回ぐらい、こうしたリサーチツアーに出ます。何泊かして1回で平均20〜30湯ぐらいでしょうか。移動距離が長いと、数をこなすのが大変なんですよ」
以前は現地調査を経て商品化を決めていたが、いまはネットである程度情報収集できるので、決め打ちで行くことも多いという。
忠実に各地の温泉を再現するためには、 「お湯のイオン成分」、「湯ざわり」、「温泉地の情緒」という3つのアプローチで近づけるという。
杉浦さんは製剤担当だ。大学では化学工学を専攻し、卒業論文のテーマは『ピシアスティピティス菌を使って糖を分解してエタノールを効率的に抽出する方法』。意味はよくわからないが、どうやら名湯マスターになるべくしてなった人らしい。
現地で取ったメモ
製剤担当は取り入れる成分量を決め、調香担当は温泉地の「雰囲気」を香りで再現する。
そう、入浴剤はてっきり温泉のお湯の香りを再現するのかと思っていたら、硫黄泉などを除けば、 お湯の香りはほぼみんな同じとのこと。だから、成分は近似させるものの、香りは「雰囲気」なのだ。
理論値と分析数値との対比が離れているとダメ
草津温泉の成分は再現できないのでバスクリンでは商品化していない。
「本気で再現したら家庭の風呂釜が痛むぐらいの硫黄濃度ですから。草津の入浴剤を発売しているメーカーもありますが、あれは気分やイメージ(笑)」
さらに、100均の商品などは同じ成分の粉で香りと色だけ変えていろんな温泉名をつけて販売しているのがほとんどといった裏事情も教えてもらった!
他社商品の配合成分も研究
ちなみに、厚労省の規定では、200リットルのお湯に100グラム以下でつくらなければならないので、 あまり高濃度にすることは出来ないということ。
しかし、実際の温泉は濃度が濃く、たとえば嬉野温泉のお湯は1000ppmを超えている。この濃度差はどうしても埋められない。
「そこで注目したのが、 つるつる、すべすべ、キュッキュという湯ざわり。水溶性高分子や油性成分などの組み合わせで、低濃度でも湯ざわりを似せることに成功しました。配合の妙があるんです」
「 道後温泉ですね。あそこはpHが高くて、浸かるとつるつるしてやわらかいお湯が特徴。でも、入浴剤でpHを上げると水道水のカルシウムが白く凝固して浴槽がざらざらになっちゃう。それをアルカリが高くても出ないような方法を苦労して見つけました」
また、パッケージにはその温泉地を象徴するものが描かれるが、温泉地とバスクリンでイメージが食い違うこともあるという。
「我々としては、乳頭温泉郷と言えばあの白いお湯の鶴の湯をイメージすると思っていたのですが、温泉地側からブナの原生林を載せたいということで、現在のパッケージになったんです」
それぞれ苦労した道後と乳頭
なるほど、製剤の仕組みはよくわかった。続いて、調香室へ。
趣味はサッカーで、鹿島アントラーズのサポーター
「サッカーチームに入っており、休日はディフェンダーとしてボールを追っていますよ」という入浴剤とは無関係のトークを挟みつつ、気になる入浴剤の話題へ。
第九指揮者のような風情で調香する佐々木さん
「やはり、現地の情報を香りで表現するのが難しいですね。温泉地ごとに差別化を図らないといけないので」
メモをまとめた資料と現地で撮った写真
佐々木さんの仕事は、温泉地の匂いや情緒を香りで表現することだ。前述したように、温泉のお湯の香りを再現するわけではない。
「たとえば、これをちょっと嗅いでみてください」
青葉アルコールという単一の香りの原料だという
「現地で見かけた写真の青葉の匂いとかなり似ているんです」
実際に嗅いでみると…
おお、青臭い! ほかにも、バーチタール(木を燻したような香り)という香りを嗅がせてもらった。
「 ひとつの商品につき、計50〜60種類を組み合わせるんです。この部屋だけで2000〜3000種類の香りの原料があります。再現できない香りはないでしょう」
おお、大きく出ましたね。
最近は機械で匂いを分析する技術が発達してきているが、やはり 最終的には人間の感覚がものを言うそうだ。
名前別に収納された香りの原料
頭で想像しながらひとつひとつを加えてゆき、最後に確認作業を行って微調整をする。
これらすべての分量を決めて組み合わせる
「 科学的なデータに感覚を加えるかんじですね。比率としては感覚の方が大きい。僕の鼻はとくべつ敏感じゃないけど、訓練されてますから」
じつは佐々木さん、ひどい花粉症で春先は鼻水が止まらない。常に鼻をかんでいる状態だが、それでも調香はできる。すべて頭に入っているからだ。
各温泉地の香りを表現した表
最後に、杉浦さんが浴槽ルームを案内してくれた。FRP製が8つ、ホーロー、人工大理石、ステンレス、ヒノキがそれぞれひとつずつ。別の部屋にユニットバスも3つある。
新商品の開発やリニューアルにあたって、杉浦さんは自分で何度も入って完成度を高める。
風呂に入るのが仕事なのである
というわけで、取材は終了。
「日本の名湯」シリーズは温泉の成分をできるだけ再現し、それに温泉地の雰囲気や情緒を香りで加えていることがわかりました。
いやあ、勉強になりました!
Yutty!
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今ではおしゃれなハーブの香りのする「温泉の粉」も人気だが、入浴剤といえば「草津の湯」や「登別の湯」など各地の温泉を再現したものが鉄板だ! しかしあの「◯◯の湯」というのは、そもそもどういう基準で作られているのだろう?そもそも「温泉の粉」の正体というのはいったい何なのだ!? そんなこんなで、Yutty!取材班は「バスクリン」本社に突撃取材を敢行した!!!
企業秘密!?かと思いきや、いとも簡単に潜入成功!
さっそく連絡を取ってみる。「企業秘密なんで…」と一蹴されるかと思いきや、じつに太っ腹、「どうぞどうぞ」とバスクリンのつくば研究所に招かれた。 ビルはもちろんバスクリンカラー
話を聞かせてくれたのは、製品開発部・シニアマネージャーの杉浦 満さん(47歳)。
杉浦さんは1991年入社時から入浴剤の商品開発に携わり、中でも「日本の名湯」開発の中心人物。
ミスター名湯ともいえる杉浦さん
「1986年の発売当初は5品目から始めました。色はクリアタイプ。1987年に登別カルルスと山代温泉の白濁バージョンが出たんです」
この濁り湯タイプの開発には苦労したそうで、ファンデーションに使われる酸化チタンを水溶性高分子でコーディングすることで、ようやく完成したという。
「企画から開発、発売まで、短くても1年半、長くて3年以上かかることもあります。安定性の試験や厚労省の許認可待ちもあるので」
当時の「日本の名湯」シリーズはテレビCMをばんばん打って、景気もよかったせいもあり、年間80億円を売り上げた。では、 実際にどうやって日本各地のお湯を再現しているのだろうか。
「企画、製剤、調香の3人チームで実際に温泉を巡るんです。 そのうえで、上位3種類の含有成分を合わせること温泉地の情緒を色と香りで表現します」
仕事で温泉巡りを楽しめるだなんてうらやましい! と思ったらそうでもなく、のんびり温泉を楽しんでいる時間はないとのこと。
情報を取ったら5分で湯から上がる。その後30分ほどは現地にとどまって、温泉地の雰囲気を肌で感じながら商品の方向性を徹底的に話し合うのだ。
「帰社してしまうと仕事部屋はバラバラなので、顔を合わせる機会も少なくなるんです」
いまでこそ温泉地との共同開発は盛んだが、当時は日帰り入浴の文化がまだなかったため、煙たがられることも多かったそうだ。
「1年に2~3回ぐらい、こうしたリサーチツアーに出ます。何泊かして1回で平均20〜30湯ぐらいでしょうか。移動距離が長いと、数をこなすのが大変なんですよ」
以前は現地調査を経て商品化を決めていたが、いまはネットである程度情報収集できるので、決め打ちで行くことも多いという。
再現が一番難しかったのは道後温泉
さて、ここからが本番だ。忠実に各地の温泉を再現するためには、 「お湯のイオン成分」、「湯ざわり」、「温泉地の情緒」という3つのアプローチで近づけるという。
杉浦さんは製剤担当だ。大学では化学工学を専攻し、卒業論文のテーマは『ピシアスティピティス菌を使って糖を分解してエタノールを効率的に抽出する方法』。意味はよくわからないが、どうやら名湯マスターになるべくしてなった人らしい。
製剤担当は取り入れる成分量を決め、調香担当は温泉地の「雰囲気」を香りで再現する。
そう、入浴剤はてっきり温泉のお湯の香りを再現するのかと思っていたら、硫黄泉などを除けば、 お湯の香りはほぼみんな同じとのこと。だから、成分は近似させるものの、香りは「雰囲気」なのだ。
草津温泉の成分は再現できないのでバスクリンでは商品化していない。
「本気で再現したら家庭の風呂釜が痛むぐらいの硫黄濃度ですから。草津の入浴剤を発売しているメーカーもありますが、あれは気分やイメージ(笑)」
さらに、100均の商品などは同じ成分の粉で香りと色だけ変えていろんな温泉名をつけて販売しているのがほとんどといった裏事情も教えてもらった!
ちなみに、厚労省の規定では、200リットルのお湯に100グラム以下でつくらなければならないので、 あまり高濃度にすることは出来ないということ。
しかし、実際の温泉は濃度が濃く、たとえば嬉野温泉のお湯は1000ppmを超えている。この濃度差はどうしても埋められない。
「そこで注目したのが、 つるつる、すべすべ、キュッキュという湯ざわり。水溶性高分子や油性成分などの組み合わせで、低濃度でも湯ざわりを似せることに成功しました。配合の妙があるんです」
では、再現が一番難しかった温泉はどこだろう?
「 道後温泉ですね。あそこはpHが高くて、浸かるとつるつるしてやわらかいお湯が特徴。でも、入浴剤でpHを上げると水道水のカルシウムが白く凝固して浴槽がざらざらになっちゃう。それをアルカリが高くても出ないような方法を苦労して見つけました」
また、パッケージにはその温泉地を象徴するものが描かれるが、温泉地とバスクリンでイメージが食い違うこともあるという。
「我々としては、乳頭温泉郷と言えばあの白いお湯の鶴の湯をイメージすると思っていたのですが、温泉地側からブナの原生林を載せたいということで、現在のパッケージになったんです」
なるほど、製剤の仕組みはよくわかった。続いて、調香室へ。
温泉地の匂いや情緒を香りで表現
待っていてくれたのは、 製品開発部・調香師の佐々木大輔さん(36歳)だ。「サッカーチームに入っており、休日はディフェンダーとしてボールを追っていますよ」という入浴剤とは無関係のトークを挟みつつ、気になる入浴剤の話題へ。
「やはり、現地の情報を香りで表現するのが難しいですね。温泉地ごとに差別化を図らないといけないので」
佐々木さんの仕事は、温泉地の匂いや情緒を香りで表現することだ。前述したように、温泉のお湯の香りを再現するわけではない。
「たとえば、これをちょっと嗅いでみてください」
「現地で見かけた写真の青葉の匂いとかなり似ているんです」
おお、青臭い! ほかにも、バーチタール(木を燻したような香り)という香りを嗅がせてもらった。
「 ひとつの商品につき、計50〜60種類を組み合わせるんです。この部屋だけで2000〜3000種類の香りの原料があります。再現できない香りはないでしょう」
おお、大きく出ましたね。
ひどい花粉症だが、調香はできる
頭で想像しながらひとつひとつを加えてゆき、最後に確認作業を行って微調整をする。
「 科学的なデータに感覚を加えるかんじですね。比率としては感覚の方が大きい。僕の鼻はとくべつ敏感じゃないけど、訓練されてますから」
じつは佐々木さん、ひどい花粉症で春先は鼻水が止まらない。常に鼻をかんでいる状態だが、それでも調香はできる。すべて頭に入っているからだ。
最後に、杉浦さんが浴槽ルームを案内してくれた。FRP製が8つ、ホーロー、人工大理石、ステンレス、ヒノキがそれぞれひとつずつ。別の部屋にユニットバスも3つある。
新商品の開発やリニューアルにあたって、杉浦さんは自分で何度も入って完成度を高める。
というわけで、取材は終了。
「日本の名湯」シリーズは温泉の成分をできるだけ再現し、それに温泉地の雰囲気や情緒を香りで加えていることがわかりました。
いやあ、勉強になりました!
結論
温泉のお湯そのものではないが、トータルで温泉地の気分を楽しむ商品、すなわち温泉入浴剤は総合芸術だったのだ。元記事はこちら
■ バスクリン「日本の名湯」シリーズ、どうやって温泉のお湯を再現しているの?■ 温泉に行きたくなるメディア「Yutty!」トップページ
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